「私ってね、よく太陽みたいな存在って言われるんだ」
看板めぐりの一日目。キタカミセンターに向かっている最中、アオイが唐突にぽつりとつぶやく。先を行く彼女の顔は分からないが、少なくともそのトーンに太陽のような明るさはない。おれは言葉の意味するところが分からず、続きを待つ。
「私が太陽なら、スグリくんは月っぽいな、って思ったの」
「……それって、アオイに照らされないと輝けないっていう意味?」
「違うよ!」
分かりやすくあたふたしながら否定するアオイ。感情が声色にはっきり出てしまうさまが、年相応の女の子らしくめんこい。その姿を見ていると、心に橙色の優しい灯りがともるような心地を覚える。おれの第一印象では、アオイは太陽というより、ろうそくの灯りのようにやわらかく照らして道標になってくれる、そんな存在だと思う。それとも、長いこと一緒にいたら太陽みたいだと思うようになるのかな。
「太陽ってずっと見ていると目が痛くなっちゃうけど、月はいつまでも見ていたくなるような感じというか……つまり優しいっていう意味だよ」
「ずいぶん詩的な言い方さすんだな」
遠回しではあるが、アオイに褒められているのだと分かって、つい照れ隠しの言葉が口をついて出る。
「それに、太陽は光が強すぎて他の星を消しちゃう気がするんだよね」
「そんなことはないと思うけど……。確かにアオイはパルデアのチャンピオンだし、コライドンみたいな特別なポケモンも持ってるし……他のトレーナーはなかなかそうはなれないべ」
そっか、と返ってきたのち、言葉が途切れる。他の星の輝きを消すなんてとんでもない。きっとアオイに照らされて輝いている人々はたくさんいるんだろう。でも、こんな話をするぐらいだからアオイはそうは思っていないはずだ。アオイの思考をなぞろうと、必死に頭を働かせて、ひとつの解にたどりつく。
「アオイってさ、独りぼっちだって思ってるの」
「えっ?」
「他の星を消して独りぼっちでいるっていう意味なのかな、って。見当違いなこと言ってたらごめんな?」
ぴたりとアオイが立ち止まるのにつられて、おれの足も動かなくなる。あ、言葉を間違えたかな。涼しい風が強く吹き抜けて、草木をざあっと揺らしていく。その風に、心にともっていた灯りも消えてしまう。ごめん、と謝ろうとした矢先、凛としたアオイの言葉が響く。
「そう、なのかも。聞いてくれてありがとね。ごめんね、こんな話」
「いや……」
ひとりで結論付けてしまったようで、何でもなさそうに言うアオイ。本当はその心の内をもっと聞いてみたいけど、出会って二日目のおれがそこまで立ち入るのははばかられた。
「でも、そんな話をどうしておれに」
「スグリくんなら受け止めてくれそうな気がしたからかな。なんでそう思ったのかは分からないけどね」
さ、看板に向かおう、と声を上げてふたたび歩き出すアオイの背中におれも着いていく。太陽が逆光で射し込み、アオイの背中を黒く染めていた。