彼女は猛毒

 いやに鮮明な夢を見た。寮のベッドの上で、アオイが俺に馬乗りになっている。彼女は裸で、俺もなぜかパンツを脱いでいて、いつの間にか固くなっていたそれが、ずぷ♡ と卑猥な音を立てながら彼女の中に飲み込まれていった。何が起こっているのか、まるでわからない。混乱する頭が、それでも俺の中心部から伝わる、うごめく肉のやわららかさと熱を認識する。抵抗したいのに、金縛りにあったかのように動くことができない。声も出せない。たんっ♡ たんっ♡ と荒く腰を打ち付ける彼女にされるがままになり、そのまま彼女の中であっけなく果ててしまった。彼女の中のうねる感触も、腰の動きに合わせて控えめに揺れる小さな胸も、彼女が普段決して見せることのない物欲しげな表情も、あたかもそれが現実だったかのようにはっきり覚えている。

 その日は目が覚めるなり、猛烈な自己嫌悪に襲われた。アオイはいちばん大事な「友達」なのに、あんな夢を見てしまうなんて。確かにほんのりと恋心を自覚してはいるものの、今は一緒に話したり、ブルレクをしたり、バトルをしたり、そういうささやかな日常の中にアオイがいるだけで十分幸せなはずだった。それなのに、俺の深層心理は彼女とセックスしたいなんて考えているのか? だが、あくまで夢は夢だ。現にパンツも、パジャマ代わりのジャージのズボンもしっかり穿いたまま。当たり前だ。アオイに対しては、何事もなかったかのように振る舞わなければ。あんな夢を見たあとでそれができるのか少し自信はないから、今日だけはなるべく顔を合わせたくないけれど。

「スグリだ! おはよう!」

 こんな日に限って、教室へ向かう途中の廊下で背後からアオイに呼び止められて、思わず体がびくりと反応する。普段であれば思いがけずアオイに会えたら嬉しいのに、運がいいのか悪いのか。

「あ……おはよう」

「あれ、何か元気ない?」

 きょとんとした無垢な表情が昨日の――夢の中の彼女とのギャップを感じさせ、なんだか悪いことをしているような気持ちになる。俺は何もしていないのに。こっちのアオイが普通で、夢がおかしいんだ。しかしそうやって心を律しようとすればするほど、かえって彼女を意識してしまう。じっとりと背中に汗が浮かび、視線が泳ぐ。

「そそ、そんなことないべ」


「そう? ならいいけど……」

 じゃあ、先生に呼ばれてるからまたね、とアオイは俺を追い越すように小走りで駆けていく。ちょっと挙動不審だったの、バレてなかったよな?

「はぁ、わやじゃ……」

 その日の夜、彼女はまた俺の夢に現れた。相変わらず動けもしないし声も出せないのに、俺のものはガチガチに勃起して、熱く火照った彼女の中に出たり入ったりしている。昨日と違うのは、彼女が俺に話しかけてくることと、そして目だけはなんとか動かせることだった。

「スグリ、気が付いた? 今日もえっちしちゃおうね♡」

 彼女はそう言う間も、抽挿をやめない。くちゅ♡ くちゅ♡ といやらしい音が部屋に響いて、否が応でも意識が下半身に集まってしまう。せめてもの抵抗とばかりに、キッと睨みつけてみる。目の端で、彼女の薄い腹に、ハートを象ったような紋様がほんのりとピンク色に光っているのが見えた。あれは、何だ?

「あはっ、いいね、その目♡ ぞくぞくしちゃう♡」

 俺の視線は彼女をいっそう昂らせてしまったらしい。腰の動きがいっそう早くなり、そこがぐっしょりと濡れていることを主張するようないやらしい水音と、勢いよく肉がぶつかる音だけが絶え間なく響く。知らず知らずのうちに、身体の奥から射精感が上ってくる。こんなのいやだ。出したくない、出したくないのに。視界がじんわりと滲んでいく。この涙が悔しさによるものなのか、生理的なものなのかさえ分からない。

「んふふ、もう出そうになってるね♡ いいよ、私の中にいっぱい射精して♡ これは夢なんだから♡ 無責任に中出ししてきもちよくなっちゃえ♡♡♡」

 やめろ。アオイの姿と声で、アオイが言わない下品なことをしゃべるな。ぐ、と腹筋に力を入れて射精をこらえようとしたが、抵抗むなしく今日も彼女の中に精を吐き出してしまった。彼女も達しているのか、中がぎゅんぎゅん♡ と精液を搾り取るように動き、ひとりでするときには味わえない快感を与えてくる。

「2日連続でこんなことしちゃったら、明日どんな顔して私と会えばいいのか分からなくなっちゃうね?」

 くすくす、といたずらっ子のように笑うアオイの姿を見たのを最後に、俺は意識を手放した。

「……スグリ、スグリってば!」

「わぁっ!?」

 今日の俺は、ことあるごとに夢の中の彼女の姿を思い出してしまっていた。そのせいで授業にも集中できず、テラリウムドームで野生のウォーグルに追いかけ回されるわ、ノートもまともに取れないわでさんざんな一日だった。ただでさえ休学したことで勉強が遅れがちだというのに、これは本当にだめだ。放課後はいつものようにリーグ部に顔を出したものの、やはり意識は空想の世界へと飛んでしまう。今もアオイに話しかけられていたというのに、しばらく反応できていなかったらしい。

「私とバトルする約束でしょ! はやくコートに行こうよ」

「ん、んだな」

 今日も私が勝っちゃうからね! と無邪気に笑うアオイからは、あの妖艶な雰囲気は微塵も感じられない。そのギャップが、さらに俺を狂わせる。

 とはいえ、バトルはいつだって真剣勝負。そうでないとアオイにも失礼だ。コートで気合を入れるように両頬をパンと叩き、所定の位置につく。

「よし……それじゃいくよ! キュウコン、サンドパン!」

「いけっ! カイリュー! ニョロトノ!」

「んふふ、スグリくんはやっぱりいつもの2体だね」

 なんだか今の笑い方、夢の中の彼女に似ていたような? と思って、すぐにそんな考えをかき消す。今目の前にいるアオイが本物で、あいつは夢にだけ現れる偽物だ。アオイがあいつに似ているんじゃない。あいつがアオイに似ている、それだけだ。

 先発で出すポケモンを読まれていたのか、彼女はアローラのすがたのキュウコンとサンドパンを繰り出してきた。キュウコンの特性「ゆきふらし」で、コートに雪が降り始める。これでサンドパンの特性「ゆきかき」を発動させて素早く攻撃を仕掛けようということだろう。

「サンドパンはカイリューにつららおとし! キュウコンはオーロラベールを張って!」

「カイリュー、かわして! ニョロトノはウェザーボールだ!」

「え?」

 彼女が困惑しているのが見える。なぜ? と思ったのも一瞬で、まずはニョロトノにあめふらしをさせて天候を上書きすべきだったと分かった。そうでないとウェザーボールはこうかがいまひとつになってしまうし、カイリューのぼうふうやかみなりも必中にならない。

 その後もめちゃくちゃだった。オーロンゲにリフレクターやひかりのかべを張らせる前にソウルクラッシュを指示してしまって役割を果たさせてあげられなかったり、ガオガエンにかわらわりをさせてオーロラベールを壊すところ、フレアドライブを指示してしまったり。その結果、こうかがばつぐんにも関わらず、キュウコンを倒すまでには至らなかった。普段と違うことをポケモンたちも感じ取ったのか、カミツオロチは俺に気を取られて、きまぐレーザーをフルパワーで撃つことができなかったようだ。

 結局、あっという間に六体とも倒されてしまった。観戦していた生徒たちも俺の様子のおかしさに勘付いていたようで、「元チャンピオン、どしたん?」「今のスグリくんなら私でも勝てるんじゃない?」といった軽口が聞こえてくる。悔しい。悔しい悔しい悔しい! 悪いのは夢に出てくるあいつなのに! と、自分の脳が作り出しているはずの妄想に責任転嫁をしてしまう。

「スグリ、ちょっと変だよ!? どうしたの!?」

 駆け寄ってきたアオイが、ただごとではないといった雰囲気で俺の顔を覗き込みながら、直球で尋ねてくる。あ、この香り、夢で嗅いだ香りと同じだ……。

「……ごめん、ちょっとひとりにしてくれっか?」

 俺はアオイに背を向けて、自分の部屋へ向かって脇目もふらずに駆け出した。そうしてあの虚像の影まで振り払えてしまえたらよかったのに。

 またしても、だ。俺はアオイと繋がったまま、身動きを取ることができない。ただ、今日は声が出せる感覚があった。もっとも、いま口の中は彼女の舌に蹂躙されていて、発声しようとしてもくぐもってしまい、意味のある音を成さない。上も下も同時に犯されて、頭の中がスパークする。

 ぢゅるるっ♡ と捕食されているかのように口の中をかき回される。脳に酸素がうまく行き渡らなくなり、目の前がちかちかと明滅する。俺、このまま酸欠になって殺されるのかな、と思った瞬間、はっ、という息の音とともに口が離された。ぜぇぜぇと呼吸する俺に、なんでもないかのように彼女は言う。

「んふふ、すっごいとろけた顔してるね♡ えっちなキスできもちよくなっちゃったんだ♡」

「馬鹿言うんでね! こったな一方的にされて気持ち良いわけあっか! アオイのふりしてしゃべんな!」

「アオイのふり、じゃなくて私はアオイだよ♡」

 やめろ。やめろやめろやめろ! 俺の大事な「友達」を汚す奴は許さん!

「黙れ! アオイは俺の『友達』だ! 『友達』がこんなことするわけね!」

「ふぅん? あんまり言うようなら、またしゃべれなくしちゃおっかな♡」

 その言葉に、思わず口をつぐむ。原理は分からないが、俺の生殺与奪の権は彼女が握っているのだと、はっきり分かってしまった。せっかく言葉で意思疎通ができるようになったのに、しゃべれなくなってしまうのは困る。とはいえ彼女が俺の訴えを理解するつもりはさらさらないのだろうけど。

「もう気付いてると思うけど、一日目は完全な金縛りで、昨日は目線だけ動かせるようにしたの。今日はそれに加えて口も動かせるからしゃべれるし、さっきみたいにぢゅ~っ♡ ってベロチューだってできたんだよ♡ だから明日は身体も動かせるようにしてあげようと思ってたんだけどな~?」

 にやりと笑って俺を見下ろすアオイ。俺がどんな返事をするのか、見透かしているようだった。

「……わかった。もう反抗的なことは言わね。だから、身体を動かせるようにしろ」

「『しろ』じゃなくて『してください』でしょ?」

「……身体を動かせるように、して、ください……」

 屈辱だ。アオイのふりをしたうえに俺の自由を奪いやがって。こいつ、絶対に許しておけない。身体を動かせるようになったら覚えてろ。

「んふふ、よくできました♡ でもね、それは明日のお楽しみ♡ 今日はまだ射精してないでしょ? お射精するまでも~っと楽しもうね♡」

 言うが早いか、再び下品に口付けてくる。口の中をねちっこく舐め回され、唾液が流し込まれる。舌を噛みちぎってやりたいところだが、また意思の疎通が取れなくなるのが怖い。俺は彼女の舌を受け入れるほかなかった。同時に腰の律動も再開され、快感が全身を駆け巡る。上半身からも下半身からもぬちゅぬちゅ♡ と淫靡な音がして、意識の逃げ場がない。

「ベロチューしながらの生ハメえっち、きもちいいね♡ きもちよすぎて我慢なんかできないね♡」

 ばちゅんっ♡ と、いっとう強く腰を打ち付けられ、中がぎゅんっ♡ と締まるのが分かった。だめだ、だめだ、このままだとまた出てしまう。

「中に射精したい?♡ 射精したいよね?♡ これは夢♡ だからいっぱい射精していいんだよ♡♡ その間もキスしててあげる♡♡♡」

れろれろれろ♡ といやに丁寧に口の中を舐め回され、射精することしか考えられなくなっていく。俺を律するはずの理性は快感の熱でどろどろに溶けていった。

「んっ、ん゛ぁっ……」

 情けない声を上げながら、びゅくっ、とあっけなく彼女の中に吐精した。出ている間も、彼女の舌はぬちゅぬちゅ♡ と蠢き、中は搾り取るようにきゅんきゅん♡ と締まる。

 「友達」相手にこんな夢を見てしまって罪悪感を感じている一方で、淡い恋心を抱いていた彼女と深く口付けながら射精しているということに、うっすら恍惚とした思いも感じている。俺は、最低なのかもしれない。

「あれ、今日はまだできそうだね?」

 俺の気を知らない彼女は、口元の唾液を舌でぺろりと拭いながらそう言って腰を上げた。中に出された粘度の高い精液がとろ~っ♡ と出てくるさまがあまりに蠱惑的で、頭がくらくらする。そして彼女は、俺の股間に顔を埋めた。

「やめっ……それは、ほんとにっ」

「え? でもスグリのここ、またおっきくなってるよ?」

 彼女の声や息がかかるたびにくすぐったくて、自分の意志に反して股間がびくん、と動いてしまう。どうして、もうこんなことされたくないのに。なんで俺の身体は、俺の言うことを聞かないんだろう。

「じゃあ、いただきま〜す♡」

 彼女が口をすぼめて吸い付くと、めんこい顔が下品に歪む。こんな表情は知らない。知るわけがない。

 頬をべっこりと凹ませ、俺の精液を搾り取ることしか頭にない、といった勢いでじゅぼ♡ じゅぼ♡ と頭を上下に動かす彼女。一度達して敏感になっていたそこは、あっけなく射精しようとする。

「も゛ッ……出る、からッ、口、離して……っ」

「ん、ひーよ♡ ほのままはひへ♡」

 ぶるり、と背筋が震え上がったかと思ったら、壊れた蛇口のようにだらだらと彼女の口の中で出してしまった。精を出し尽くした俺は妙に冷静になる。そこに先ほど感じたような幸福感はなく、黒い罪悪感で頭の中が塗りつぶされていくようだった。

「どうして、っ……どうして、こんなこと……」

 俺は目を腕で覆い、彼女の目も気にせず声を上げて泣く。いつの間にか俺の精を飲み込んだらしい彼女が、楽しそうに耳元で囁く。

「んふふ、スグリはただきもちよくなってればいいんだよ♡ そのうち、罪悪感もきもちよさのスパイスになっちゃうよ♡」

 ふざけるな、と言いたいがもう声にならず、ただただ涙を流すことしかできなかった。

「それじゃ、また明日ね♡」

 次に目が覚めたときには、もう授業が始まっている時間だった。目覚ましをいつの間にか止めてしまっていたらしい。最近、あの夢のせいでゆっくり眠れている感じがしない。俺の頭はどうしてしまったんだろう。もういいや、と投げやりな気分になり、まるっと一日休むことに決めた。眠気が残っているので眠りたいが、またあの夢を見たら、と思うと怖い。考えないようにしようとしても、どうしたって脳内がピンク色に染まっていく。一度抜けばこの煩悩も晴れてくれるだろうか。俺は寝転がったまま、右手で自分のそれを握った。妄想の力だけで、もうすっかり固くなっていた。

 昨日のセックスやフェラを思い出しながら、機械的に手を動かす。それでもしっかり気持ち良くなってしまい、思わず声が出る。

「ん゛っ、ふー……ッ」

『んふふ、すっごいとろけた顔してるね♡ えっちなキスできもちよくなっちゃったんだ♡』

『お射精するまでも~っと楽しもうね♡』

『ん、ひーよ♡ ほのままはひへ♡』

 彼女の痴態とえっちなセリフを思い出し、手が早まる。頭がだんだんと真っ白になっていく。

「ぅあ゛……ッ」

 手のひらにぴゅっ、と白濁が吐き出される。自分でも情けなくなるほど勢いのない射精だった。夢で彼女の中に出した瞬間の気持ち良さも、量も、絶対にこんなものではなかった。一度出したら満足すると思っていた身体は、夢での強烈な快感とのギャップに耐え切れないのか、二回目をせがんでくる。頭の中に靄がかかったような意識の中、俺は再度自身の欲の塊を握り直した。

「ぅ゛……っ」

 一回目に出した精液がローションのような役割を果たし、にゅるにゅるとした感触がまとわりつく。しごくスピードが自然と早まってしまう。

 忙しなく手を動かしていると、あっという間にふたたび出そうになる。鈴口がぱくぱくして、射精を今か今かと待ちわびているのが分かる。ぎゅっと手に力をこめて一気に擦り上げると、さっきよりも少し薄い精液が手を汚した。

「っは……ぁっ……わやじゃ……」

 ぐったりした俺はベッドサイドのティッシュを何枚か取り出し、手と自分のそこを拭く。二回も出してもいわゆる賢者タイムというものが訪れず、まだまだ彼女の姿を忘れられそうにない。だが、もう体力の限界だ。俺はパンツとズボンを上げ、机の前に座る。休んでしまった分、自習をしておかないと、と現実をつとめて冷静に見つめ直そうとした。

 日も暮れかかった夕方、部屋のドアをコンコン、とノックする音が聞こえた。

「スグリ、いるー? アオイです」

 いつもと変わらない明るいアオイの声に、なぜだかじわりと涙が滲む。本物のアオイは、きっと休んだ俺を心配して部屋までやってきてくれたのに、俺はといえば夢の中の彼女に囚われて、授業を休んで自慰にふけっていたのだ。ごめん、本当にごめん。アオイに合わせる顔がない。それでなくとも、今の俺がアオイと相まみえてしまえば、また俺の思考はあの妄想でいっぱいになってしまうだろう。涙声を悟られないように言葉を返す。

「アオイ……ごめんな、部屋まで来てくれたところ悪いけど、今は会えね」

「何があったの!? ねぇ、もし、私が何かしてたのなら謝るから!」

 確かにアオイが「何かして」はいるが、あれは俺の脳が作り出した幻想にほかならない。

「何があったのかは言えね……。本当は話したいこと、いっぱいあっけど……でも、アオイのせいじゃないから」

「……わかった」

「本当にごめんな、元気になったらまたバトルしてくれな?」

「うん、待ってる」

 アオイがドアから離れていくのを感じ取って、溜息をつく。こんな状態が続けば、いつまで経ってもアオイに会えないんじゃないか。そう思ったら、滲んでいた涙が粒になってぽろりと零れた。もう眠りたくないが、夜はいつもと同じようにやってくる。

「今日は眠るのが遅かったね♡ ただでさえ授業を休んじゃったんだから、早く寝ないと♡」

「誰のせいだと思ってんだ!」

 相変わらず騎乗位で俺に被さる彼女の腰をぐっと掴む。昨日彼女が言った通り、本当に俺は動けるようになっていた。そうなってしまえばこっちのものだ。男と女じゃ、圧倒的な力の差がある。

「やだ♡ 私の腰振りじゃもどかしかった?♡」

「ざけんじゃね!」

 彼女の腰を引き抜こうと思っていたはずなのに、挑発を受けてイライラした俺は彼女の奥をごちゅ♡ ごちゅ♡ と突いてしまった。今の俺と同じように、ちょうはつを受けたポケモンもこんな感じで攻撃技しか繰り出せなくなるのだろうか、と頭の片隅で考えてしまう。

「や゛ッ、あぁっ♡ すぐり、あんっ♡ せっくすじょうず……ぅッ♡」

 ここ数日の間に身体が作り変えられてしまったかのように、快感を求めて腰を振ることしかできない。なんで、どうして、こんなはずじゃ、と思う気持ちも、すべて気持ち良さの前では無力だった。彼女の中が俺の一突き一突きに呼応するようにうねる。悩ましげな表情を浮かべた彼女は、昨日までの余裕はどこへやら、俺にされるがままになって喘いでいる。

「あ゛っあ゛ぁっ♡ それだめ♡ だめらめらめ♡ おぐッ、よわいとごッ♡♡ すぐイくのっ♡♡♡」

「はっ、これまでのお返しじゃ。こんくらいでへばるんじゃね!」

 ふと思い立って、突きながら彼女の下腹部にある紋章を手でぐっと押す。まるでさわって♡ とでも言うように、やわらかい光を発していたから。その瞬間、彼女の喘ぎ声が変わったのがわかる。

「お゛ごッ、お゛ぉ~~~っ♡ ぞこだめへぇっ♡♡♡ いんもんおすにゃぁ~~~っ♡♡♡」

「ふん、これ『いんもん』って言うんだべか」

 しゃべりながらも、ばちゅん♡ と力強く打ち付ける腰の動きは止めてやらない。今は自分勝手に腰を振って、彼女を屈服させたい。そして気持ち良く出してしまいたい。それしか考えられない。口の端からふーっ♡ ふーっ♡ という獣のような息が漏れ、額を汗が伝っていく。

「も、出すからな……っ」

「うんっ♡ 射精して♡ 射精してぇ……っ♡ 膣内なかに、いっぱいっ♡」

 彼女の煽るような声を聞き、ごちゅっ♡ とさらに深く奥へ突き入れる。その瞬間、これまでで一番長くて、気持ち良い射精をした。お互いに肩で息をしながら、ゆっくりと身体を離していく。

「あは、すっごい……♡」

 彼女は笑いながらそう言うと、自分の中からあふれ出す精液を指に取り、そのままちゅぷ♡ と舐めた。分かりきっていたことだけどやっぱり違う、これはアオイじゃない。アオイはポケモンとピクニックが大好きな、純粋無垢な――俺の「友達」だ。

「……帰れ」

 自分が思っているよりもずっと、冷たい声が放たれる。まるで荒んでいた頃の俺に戻ったかのようだ。

「セックスが終わっちゃえば私は用済みってこと?♡ ひっどいなぁ♡」

 何がおかしいのか、くつくつと笑いながら言う彼女。確かに俺はひどい男だ。自分でもわかっている。でもそれなら何も知らない童貞だった俺を襲ったお前はひどくないのか。そう言ってやりたかったが、それより先に彼女が口を開く。

「でもいいよ、そろそろ種明かしの頃合いだし♡」

「なっ……!?」

 彼女は俺の部屋の窓を開け放ったかと思うと、躊躇うことなくそこから飛び降りた。ここはそれなりに高い階だし、無傷じゃ済まないはず、と思って慌てて下を覗いても、彼女の姿はどこにもなかった。俺は呆然としたまま、窓から入ってくる夜風に吹かれていた。

「はぁ……っ!」

 目覚ましの音で跳ねるように飛び起きた。よかった、今日は寝坊しないで済んだ、と安心したのも束の間、下半身に猛烈な違和感を覚える。なんだか妙に下着が湿っぽいのだ。まるで、セックスしたあとそのまま眠ってしまったかのような。俺はまだ夢の中にいるのかと、髪を強く引っ張ってみる。鋭い痛みが走り、ぷち、とすみれ色の毛が抜けた。なんだこれ、とうとう夢と現実の境界がなくなったか? 俺は困惑の中、なんとかだるく重たい身体をシャワールームに運んだ。もちろん、その後パンツは穿き替えた。

 下半身を綺麗にしてしまえば、昨日のことはやはりただの夢だったように思えてくる。せっかく目も覚めたのだし、今日は授業に出よう。もうこれ以上アオイに心配をかけるわけにもいかない。

「あ……おはよう、スグリ」

 ドアを開ければ、傍らにはアオイが立っていた。その眉は困ったように下げられている。思い返してみれば、昨日はせっかく部屋に来てくれたアオイを追い返してしまったんだった。

「おはよう、アオイ。その……昨日はごめんな」

「う、ううん! もう大丈夫なの?」

「ん、大丈夫」

 アオイに心配をかけないように笑ってみせる。仮面を張り付けたかのように少しぎこちなくなっている気もするけれど、いま心からアオイに笑いかけることはどうしても難しい。

「じゃあ、今日の放課後またスグリくんの部屋に来てもいいかな? 二人じゃないとできない話があるの」

 二人きりで内緒の話。胸が期待で膨らむその影で、毎晩訪れる爛れた情景が浮かんで声が上ずる。

「いいけど、内緒の話って何だべ」

「それは放課後のお楽しみ♡」

 にやりと笑うアオイの表情に、夢に現れる彼女の片鱗を見た気がした。その目を強いピストンでとろかして、ハートでも浮かぶような瞳にしてしまいたい。

「スグリ、どうしたの? 何か顔が怖いよ」

 不安そうに俺の顔を覗き込むアオイにはっとする。俺は今何を考えていた? 自分の思考をおぞましく感じて、首筋に嫌な汗が浮かぶ。

「何でもね。ほら、行こう?」

 俺はアオイにこの黒い心の内を悟られないよう願いながら、教室に向かって歩き出した。

 今日の日中も、夢に現れる彼女のことをたびたび思い出しては動揺してしまった。それでもすぐに昏い妄想を振り切り、一昨日ほどの失態を演ずることはなかったのが不幸中の幸いだった。

「スグリ、来たよ! 開けて~」

 放課後、部屋でアオイを待っているとノックの音と同時に声がする。中に招き入れると、ドアが閉まった瞬間にアオイが満足げに笑った。

「あーあ♡ スグリくんってば警戒心が足りないよねぇ♡」

「……は?」

「種明かしだよ、種明かし♡」

 アオイの言葉に、「でもいいよ、そろそろ種明かしの頃合いだし♡」という彼女の声がオーバーラップする。俺が目を見開いたまま固まっていると、アオイはゆっくりと自分のズボンを下げようとした。

「アオイ、ばっ、何して……っ!」

「だから、種明かしだって♡ ほら、これを見てもまだ分からない?」

 アオイが軽く下ろしたズボンの下には、ハートを象った模様――「いんもん」と言われていたそれがあった。俺はそれを認めた瞬間、腰が抜けてしまいその場にへたり込む。

「えっ、え? なん……で」

「まさか、あれが本当に夢だと思ってたの?」

 夢にしてはリアルすぎるでしょ、とからからと笑うアオイ。俺に構わず言葉を続ける。

「私ね、実はサキュバスなんだ……ってもうバレちゃってると思うけど♡ この『淫紋』もその印なの♡ 知ってる? サキュバス♡」 

 恐怖で声が出せず、ふるふる、と首を振る。

「サキュバスっていうのは、男の人にえっちな夢を見せて、精液をもらっちゃう悪魔、って言えばいいのかな♡」

 俺にはアオイの言っていることが分からない。音としては認識できるが、脳が理解を拒んでいる。こんな人智を越えた存在がいていいはずがない。

「うち、代々サキュバスの家系なんだけど、私もとうとうその力が覚醒したの。そしたら、なんかちょっとした魔法? も使えるようになったんだ。だからほら、金縛りとかもできたし、魔法をかけ忘れた昨日以外は、服が元通りになってたでしょ?」

 悪魔だし魔法が使えるし、さしずめあく・エスパータイプってところだね! なんてのんきにピースをしてみせるアオイ。確かにカラマネロの触手のようにまとわりついてきたが……なんてまだ考える余裕がある自分に対して乾いた笑いが出てしまう。

「俺たち、『友達』じゃなかったの……」

 希うように、喉の奥から声を絞り出す。ここまで言ってきたことは全部悪い冗談でした、って言ってくれ。そうしてくれたら、俺たちはまた「友達」に戻れるはずだろ?

「『友達』? 私はとっくにそんな風には思ってなかったけどな」

「そんな……」

「だって私、スグリのこと好きだもの」

 さも当然、と言わんばかりのトーンで言葉を放つアオイ。こんな状況じゃなければ「俺だって本当は友達以上に好きだ」って言いたい。両想いになったというのに、悲しくて、悔しくて、やるせなくて、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。こんなはずじゃなかったのに。

 腰が抜けたまま泣いている俺の前にアオイがしゃがみ込む。心底俺を心配してくれているような目に、サキュバスになる前の、俺が大好きだったアオイを思い出す。

「ね、だから今からしよ?」

 前言撤回。つぅ、と俺の下腹部を指先でなぞるアオイ。もう部屋から出ていってくれ、と言いたいのに言葉がうまく紡げない。自分の喉からは、余裕のない呼吸音だけが聞こえた。

 そのまましばらく放心状態だった俺は、気持ちがほんの少しだけ落ち着いたタイミングで、アオイの両肩をやわらかく掴んだ。そのまま自分の方へと引き寄せ、ちゅ、と触れるだけのキスをして、アオイを離す。

「あ♡ ようやくヤる気になってくれた?」

 アオイはポケモンバトルを楽しむときのようなギラギラした目で俺を見やる。もうアオイは完全にサキュバスとして生まれ変わってしまったのかと思ったら、止まっていたはずの涙がまた止めどなく流れ出した。

「うっ……う゛ぅっ」

「スグリ、泣かないでよぉ♡」

 誰のせいで泣いていると思ってるんだ。甘く媚びたような声にイライラと情欲が同時に頭をもたげ、俺の中で何かがぷつんと切れた。アオイを持ち上げ、ベッドに投げ飛ばす。

「やだ♡ 怖いよぉ♡」

 俺はアオイのセーラー服を性急にたくし上げる。あんなにいやらしく人を誘っておいて、彼女の胸を隠しているのは色気のないスポーツブラだった。とりあえずむにむにとブラの上から揉んでみるが、布の手触りしかしなくておもしろくない。そこでブラをぺろんと捲って胸を露出させ、直接揉みしだく。

「やっ♡ ちょっと、くすぐったいよ♡」

 それならば、と右胸にあるピンク色をした突起を口に含む。ちゅうちゅうと吸ったり、ぺろりと舐めたり、好き勝手に刺激すれば、中心部がぷく♡ と大きくなってくる。加減が分からないまま、そこに噛みつく。

「きゃっ……痛いよぉ」

「ご、ごめん」

 反射的に謝ってしまう。いくらアオイが淫らなものに憑りつかれているのだとしても、痛みや怖さはできる限り抱かせたくない。あれだけ好き勝手されておいてもそう思うのだから、惚れた弱みというやつは恐ろしい。

「反対側も、するな」

 そう言って左の胸も同じように口で刺激する。もう片方の胸は……これまで彼女のなされるがままだった俺には正直どうしたらいいか分からないが、なんとなく指できゅっと絞るように先をつまんで、引っ張ってみる。

「あっ♡ 引っ張っちゃらめ♡」

 艶っぽい声に、下腹部がずくんと疼く。アオイも興奮してくれているのかと気になってズボンの中に手を伸ばせば、パンツが意味をなさないほどぐっしょりと濡れていた。

「わやじゃ……」

「えへへ♡ もうすっごい濡れちゃってるから挿れていいよ♡」

 ぺろりと舌なめずりをしながらそう言うアオイにたまらなくなり、パンツをできるだけ丁寧に脱がせる。自分のパンツも脱げば、そこにはここ数日で何度も出しているとは思えないほどの剛直がそそり立っていた。

「あはっ♡ スグリのおっきいの見たらおなか切なくなっちゃった♡」

「……あんまり煽るようなこと、言うもんでね」

 挿れようとして、ふと思い出す。

「そういえば、ゴム……」

「あ、いらないよ♡ 人間とサキュバスはえっちしても子供ができないの♡」

 サキュバスが妊娠するにはインキュバスっていう種族と交わらないといけないんだ、と付け加えられる。にわかには信じられないが、確かにこれまでもすべて彼女の中で果てていた。アオイと俺の間の隔たりが何もない状態で繋がることができるという現実に生唾を飲み込む。

「じゃ……このまま挿れんな」

「うんっ♡」

 ずぷ、と俺自身がアオイの中に飲み込まれていく。初めて自分の意思で彼女の中に自身を埋めてしまった。本当だったら告白して、手を繋いで、キスして、それからゆっくりと、幸せに、身体を重ねるはずだったのに。

「何か難しいこと考えてるでしょ。眉間に皺寄ってる」

「誰のせいだ、よっ」

 動こうとした瞬間、ぽた、とアオイの胸元に涙が落ちる。それを感じて思うところがあったのか、肩のあたりをよしよし、と撫でられる。

「真面目な話をするとね、順序が違ってしまったのは、悪かったと思ってるよ」

「……うん」

「スグリのことが好きなのは本当。でもサキュバスとして覚醒したばっかりで、私がまだ力をうまく制御できなくて突っ走っちゃったの……ごめんね」

 その言葉を聞いて、うなずく。アオイからの「ごめんね」が聞けたことに、ちょっとほっとする。まだ、優しさにあふれた、俺の大好きなアオイがそこにいたからだ。

「ね、今度はスグリに動いてほしい」

「わかった」

 形はひどく歪だけれど、お互いがお互いを「友達」以上だと意識してから、初めてのセックスをする。これまでとは違った緊張と温もりを感じる。

「痛かったら、言って」

 あれだけ俺のことを搾り取っておいて今さら痛いこともないだろう、とは思った。ただ実質的に初めて抱くのだからとびきり優しくしてやりたくて、そんな言葉が口を突いて出てしまった。言わば、これは俺のプライドが言わせた言葉だ。

 ぎこちなくゆっくりと腰を動かすと、ぱちゅっ♡ という控えめな音が響く。五感でアオイを直に感じて、脳がぐずぐずにとろけそうになる。正直、肉体的な快感だけなら夢の中の彼女に与えられたものの方がずっと大きかった。だが、今は大好きな女の子を抱いているという幸福が合わさって、一方的な搾精では味わえない充足感をもたらしてくれる。俺ばっかりじゃなく、アオイもこんな風に思ってくれていたらいいのに。

「アオイ、気持ち良い?」

 あまりにも直球すぎる聞き方をしてしまって、自分で自分に苦笑する。

「んッ、あっ♡ きもちいいよ♡」

「にへへ……」

 嬉しい。可愛い。愛しい。好き。大好き。愛してる。

 幸せな気持ちで心が満たされていく。あんなことをされても、俺はアオイを諦めきれないんだ。

「っごめ、もう出ちゃ……」

「んんっ、うんっ、いいよ♡ 出して♡」

 腰の動きを早める。もう出る、という瞬間にアオイの中から引き抜いて、彼女のお腹――淫紋の上にぴゅる、と吐き出した。

「っ……は、あんまり、出ね……」

「えへへ、私がいっぱい搾り取っちゃったもんね♡」

 いたずらっぽく笑うアオイがたまらなくめんこい。ティッシュを手に取って、彼女のお腹を優しく拭く。いくら量が少ないとはいえ、こんなでろでろした液体が触れていては気持ち悪いだろう。

「中に出しても良かったのに」

 ティッシュをゴミ箱に放り、不服そうに口を尖らせるアオイの頭を撫でる。

「確かに中に出しても子供はできないかもしれないけどな、俺は俺のやり方でアオイを大事にしたい」

 俺の言葉を聞いたアオイは目を閉じてうーん、と唸る。サキュバスは「精液をもらっちゃう悪魔」と言っていたし、俺のやり方は受け入れてもらえないのかもしれない。だとしたら、仕方ないけどアオイがもう二度と俺に対して間違いを起こさないように、しっかりアオイの性欲混じりの好意は拒絶してやろう。せっかく両想いだと分かってそうするのは、悲しいけれど。

「……たまになら」

「え?」

「たまになら、いいよ。外に、出すのでも」

 でも完全にそればかりになっちゃうと魔力が尽きちゃうからちゃんとちょうだいね、と、じとっとした目で見つめられる。

「ん、わかった。……その、順序が違ってしまったけど、俺と付き合ってくれる?」

「もちろん!」

 端から見たら歪でふしだらな関係かもしれない。それでも今の俺はアオイと心が通じたことがたまらなく幸せだった。乱れた服のまま、アオイの隣に横たわって抱きしめた。

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