その気持ちの正体は「  」

 スグリとの距離の取り方が、わからなくなった。

 つい最近までは、他の友だちと変わらずに接することができていた、と思う。それに、スグリ以外にこんな悩みを抱くことはまったくない。姉のゼイユちゃんも大丈夫。カキツバタに至っては向こうからぐいぐい距離を詰めてくるものだから、こっちがびっくりしちゃうほどだ。
 それなのにスグリは、スグリだけは。話したり一緒にブルレクをしたりするたび、距離が近いかな、とか、反対に遠いかな、とか考えてしまう。今日もそんなことで頭がいっぱいになっていたら、お昼にスグリと話したとき、「アオイ、なんか上の空になってる?」なんて聞かれてしまった。

 あの日の朝焼けの中で私たちはもう一度友だちをやり直すと決めた。なのに、二回も友情にヒビをいれるような状況を作るわけにはいかない。だから早くなんとかしなくては。

「――というわけなの。どうしたらいいと思う? あ、もちろん本人には秘密で!」

 放課後の部室でため息をついていたら、タロちゃんに「悩みがあるなら聞きますよ」と声をかけられた。だから洗いざらい話したのだけど、それを聞いたタロちゃんも真剣に悩み始めた。眉間にしわを寄せて、こめかみのあたりを押さえている。親身になってくれてありがたいな。

「アオイさんがそうなってしまう理由、わかるかもしれません」

「それなら、」

「ただ、わたしからは言えません。そんなことしたら、かわいくないですから」

 え? どういうことだろう。ふたたび二人して唸り始めた頃、スグリが部室にやってきて、私の隣に腰掛けた。あ、近いかも。私はとっさに隣の席へ移る。

「アオイ、それ逃げられているみたいでなんか……やだ」

 眉をハの字にして悲しがるスグリに、私は慌てて言葉を紡ぐ。

「ち、違うの! 最近、スグリとの距離の取り方がわからなくなっちゃって、」

 さっき「本人には秘密で」って言ったのに、やっぱりスグリに隠し事をしたくない気持ちのほうが勝ってしまった……ということにしておこう。断じて、テンパって思わず口から出てしまったわけではない。私の言葉に一瞬虚を突かれたような顔を見せたスグリが、すぐに合点したとばかりにゆるりと笑って、これまでにないくらいに距離を詰めてきた。それはもう、肩がつきそうなくらいに、ぴったりと。

「この距離は嫌?」

 耳元でささやかれて、身体がこわばる。スグリの息が触れたところだけがじんと熱くなる感覚がする。

「い、いやじゃない、です」

「なら、たぶんアオイは俺と同じ気持ちでいてくれてんだ」

 どういうことだろう? この部屋にいるスグリとタロちゃんの二人には私の悩みの正体がわかるらしい。なのに、肝心の私だけがわからないなんて!

「おれ、アオイがその気持ちの正体に気づくまで待つから。わかったら教えてな?」

「う、うん」

 今はまだわからない。わからないけど、でも。この気持ちはきっと悪いものではない。だって、スグリのことを思うと心の奥で星がぱちぱちと弾けるような気がするんだ。それはまるで、むかし少女マンガを読んだときのような――あ、もしかして、これって。

――アオイが自分の気持ちの正体に気づくまで、あと七秒。

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